『死者蘇生』を読んだ
『死者蘇生』は、五条紀夫の小説である。(新潮文庫、2025)。 この小説の糖朝は、その設定にある。地方の小さな町が舞台であるが、この町には、死者を蘇生する秘術が存在する。その秘術は、死者を蘇生できるが、そのためには、他の人を代わりに死なさなければいけない。しかし、24時間以内にさらに他の人を生贄にすれば、死者を蘇生できるのである。結局は、だれかが死ぬことにはなるのだが。もう一つは、この秘術によって蘇生した人は、その間の記憶を失っているという設定である。 この設定を見ると、この小説は奇想小説だろうと思うかもしれない。 たしかに、この設定は奇想の一種だろう。しかし、この小説は、奇想小説とはいえないと思う。というのも、この小説で現実ばなれしているのは、この設定だけなのである。この小説の登場人物、人間関係は、きわめて常識的なのである。 友情、母子の愛情、隣人愛、地域愛など、世俗道徳が賞賛する要素があふれているのである。設定の非常識を補うためか、と思えるほど、常識的、良識的なのである。 奇想は、現実意外の世界を切り開くためのものではなく、一般社会の価値観を徹底的に補強する結果に終わる。 昔、現実を克服し、あり得る未来を切り開く心の働きをイマジネーション、想像力と呼んだ。それに対し、一般的な世界観、価値観の変革を求めない表現をファンタジー、幻想と呼んだ。この分類にしたがえば, この作品はファンタジーである。(現在のファンタジー小説の概念とは別です。念のため。) 設定は面白いのに、だんだん説教臭くなるのである。なんだが、少し、悲しいというか、情けないというか・・・。 2025/07/27