人はその食する物である
孫引きの記述のさらに引用である。 富士川英郎の『儒者の随筆』(小澤書店)を読んでいたら、以下のような話しにであった。この本には、江戸時代の儒者の随筆を読んで見つけた面白い逸話が紹介されている。したがって、この本で知った話題について書くと、孫引きをさらに引用することになってしまう。 中野香亭という儒者は、江戸末期に生まれ、明治になって活躍した儒者だと紹介されている。わたしなど、名前も聞いたことがない。江戸時代の儒者の最後の生き残りということになる。この人の随筆集が『香亭雅談』である。この中に、『秋雨物語』の著者、上田秋成のエピソードが紹介されている。 秋成はその妻に死なれた後、一人で暮らしていたが、自分で料理ができなかった。そこで、煎り米を水に浸して食べていたらしい。それを聞いた、国学者の本居春庭が秋成に煎り米を送ったらしい。秋成は、それをありがたがって食べていたという。春庭は、本居宣長の長男で盲目の学者であった。その春庭が、秋成の窮状を見て、煎り米を送ったのである。 香亭の書くところによると、煎り米を食べ続けていると、「偏僻」つまり怒りっぽくなるそうである。角の立つ人柄で名高かった秋成が、そういう人になってしまったのは、煎り米を食べ続けていたからであろう。つまり、春庭の善意の結果だというのである。 秋成と春庭という著名人が登場して、話題が煎り米というというところが、なかなか面白い。 それにしても、江戸の儒者は、みな教養に富んでいる。そして、それを漢文で書いたのである。江戸時代後期の教養の水準は、わたしなどの遠く及ぶところではない。いや、わたしでは、鼻から物差しにならないのである。 2026/11/01