保存好きの気質

  『十八史略』は、日本では、中国史の入門書として、長く読まれてきた本である。これもかなりよく知られたことだが、この本は中国では失われて、日本にのみ読まれてきた。その理由はあまり芳しいものではない。この本は、中国正史のダイジェスト本、つまり歴史学習の参考書なのである。ところが、この本の出来は、傑出したものではなく、どちらかといえば凡庸なものなのらしい。つまり、中国ではそれほど重視されず、時代の経過とともに埋もれてしまったということらしい。しかし、日本人には適当な学習書として重宝された。

 書道では。智永の真草千字文はきわめて有名なものである。これも、日本にのみ伝承され、中国では失われてしまった。もちろん、千字文そのものは中国で広く流布しているが、智永直筆のものが失われているのである。千字文は、千の文字を一度づつ使って、内容のある韻文に仕上げたものである。その千字は、王羲之の超した書から選ばれている。智栄は、王羲之の子孫で、王羲之の文字を真似て。生涯多くの千字文を書き残した。中国でも高く評価され、漢字、書道の学習用に尊重されたらしい。智永の千字文は多くの人の所望するものであった。

 ところが、この智永の千字文、中国では失われて、日本にのみ残ったのである。現在、小川本と呼ばれているものがそれである。今出版されている千字文の複製は、ほとんどがこれを原本としている。

 なぜ、中国では、たくさんあったはずの智永の原本は失われてしまったのだろう。おそらくは、それが文字を学ぶ教材として重視されたためではないか。つまり、日々、教科書として使われたために、消滅してしまったのだと推測されている。

 日本では、智永千字文は、中国渡来の貴重な品として取り扱われ、伝承されたのだろう。しかし、それだけが理由だろうか。日本だったら、教材として実用的に使われたとしても、失われるといったことはなかったのではないが。日本は、とにかく、いろいろなものを保存したがる。それは事物だけではなく、芸能や学問にもいえることである。


 近年、博物館や図書館が所蔵している資料を処分することを可能にする法律が成立しそうになっているが、反対の声もあるようだ。いったん保存した物は、捨ててるべきではない、という意見が、根強いのであろう。


2026/03/08


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