薄っぺらい漢字たち















  中国語を習い始めた時、面食らったことの一つのことに、皿を意味する言葉が一つではないということがある。皿という字は、発音min3で、意味は一応皿なのだが、口語では単独では用いられない。現代の中国語で皿を意味する単語は、盤子pan2zi3、碟子die2zi3の二つである。このうち、前者は大きい皿、後者は小さい皿を意味するという。この二つの単語のうち、どちらが上位概念なのか、をれを知るために、手元の中国語の辞書「規範漢語詞典」を引いて見る。すると、前者が「食べ物を入れる底の浅い、円形ないし楕円形の器」となっているのに対し、後者は「食べ物を入れる小さい盤子」となっている。これを見ると、盤子の方が上位の語であると思う。ただし、盤子が皿一般を指すと簡単に言えないのは、やはりこの二つへ別の意味だという意識が強いからだと思われる。その原因は、中国人の食事における、大皿と小皿がかなり別の物という意識があるのだろうと思う。盤子が料理を入れて出すものなのに、碟子は料理を自分のために取り分けるものだからである。皿を指す言葉の違いの背景には、それを使用する現実の違いが存在している。

 ところで、この盤子の盤という字であるが、現代中国語の簡体字では、上右側のル又の部分が省かれ、舟だけになっている。これは、漢字の成り立ちを無視した字形である。舟の発音はzhou1である。漢字の旁が、まったく機能していない。わたしには、簡体字のよくない例であると思われる。


 普通、漢字の辞典は、偏(へん)別に文字を分類している。しかし、漢字を旁(つくり)でまとめた変わり者の辞書がある。わたしがもっているものは、『識字快車』(商務印書館国際有限公司)というものである。

 これで、舟の部分をみると、「舟」と「盤」(のル又を省いた字)だけが載っている。これを見ても、旁が舟というのは、どうにも無理矢理であることが理解される。また、「般」を含む他の漢字は、「舟」に変更していないので、なぜ盤だけが変更されたのか、疑問である。

 ところで、皿のもう一つの言葉「碟子」の「碟」の方にも問題がある。この字、「蝶」などの同族である。喋牒諜などがある。魚偏もある。これらはdieと発音する。この旁を含む字は、基本的には「薄い、ぺらぺら」という意味、イメージを原義としている。さて、この旁を使っている字で一番なじみのある字は、「葉」であろう。この字の発音はye4であり、多少違ってはいるがやや似通ってはいる。「識字快車」で「碟」の右側の字群を開いてみると、そこには「葉」は存在しない。その理由は、簡体字では「葉」は「叶」とい字になっているのである。「快車」で、「十」の旁の部分を開くと、なるほど、「叶」が出てくる。この字の発音はxie2であり、これをye4と無理矢理読ませているのである。これはよく使う字だから、出くわすたびに、簡体字が漢字の原則を破壊していることを思い出すことになる。


 それにしても、「識字快車」は、簡体字とその元字についてはまったく触れない。簡体字がそもそもの漢字であったかのように扱われている。おそらくは、お国の言語政策を尊重したのであろう。そこを説明するのが字書の役割であろうと思うのだが。君子は危うきに近づかないといことであろうか。


2026/04/12


コメント

このブログの人気の投稿

インフルエンザに罹った。

『三国志を歩く、中国を知る』を読んだ。

老子を読む