『千字文を読み解く』を読む
千字文は、主として、書道の手本として活用されてきた。そのためか、内容を理解することはあまり重視されてはこなかった。書道に携わる人は、漢語を書くことが多いが、そうじてその文学的、思想的内容には、あまり関心がないようである。千字文の内容についての関心の薄さは、日本だけではない。中国や台湾では、子供向きの古典が数多く出版されている。弟子規とか百家姓など、漢字の勉強用に使われる。千字文もその一つである。これらの本は、発音や簡単な解説はついているものの、内容を理解するKとには、情報が不足している。
日本であれ、中国語圏であれ、千字文の内容は、ほとんど無視されているのである。その結果、習字手本として千字文の出版物は多いが、文章としての千字文の解説書はほとんど出版されていない。
千字文の解説書として、一番手頃な物は、岩波文庫の『千字文』であろう。現行版は、小川環、木田章義が担当している。この本でさえ、あまり鮮明ではないが、智永の千字文の写真版が付されている。こうしないと、読者が納得しないと考えたのだろうか。
この本、千字文の普通の解説書ではない。6世紀の李躚暹(りせん)という学者の注の口語訳が中心をなしている。6世紀の学者の著書であるから、その記述は現代の日本人の知識とはかなり想定が異なる。その部分は、二人の著者が補充をしているのだが、注が二種類に分かれている。この本は、要するに、わたしのような読者には、かなり不親切な物になっている。学問的には、かなり高い水準を維持しているが、読み物としては不便なのである。かなりの大部であり、しかも文字も小さい。
苦労していたわたしは、amazonで調べてみた。すると、『千字文を読み解く』、野村茂夫。大修館、2005年、という本が出てきた。これを買うしかない。
で、読み始めたのである。これがわたしのレベルにはぴったりの本であった。この本を読むと、千字文には中国の歴史、思想、文学のさまざまの知識を踏まえて作成されていることがわかる。千字文の解説を通して、中国の古典に関する膨大な知識を学ぶことができるのである。この本は中国文化の小辞典といった性格を帯びている。そして、かなり読みやすい。
千字文の文章は、四字一句で、偶数句で韻を踏んでいる。千字文は、梁の周興嗣(5世紀から6世紀)という人物が、一夜で作ったものといわれる。作者はそのため、一夜に白髪になってしまったという。語句の韻を整えることが大変だったと思っていたが、これだけの内容を踏まえるとなれば、その困難は韻だけの問題ではない。わたしのような凡人には、千字文を一晩で作ったというのは、伝説だろうとしか考えられない。(作者については異説在り。)
2026/03/15
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