卒業と中退と除籍と

  伊東市の市長が、大学を卒業していないのに、卒業したと思わせるような言動をして、問題になっている。この市長の言い分がおかしいのは、実際は除籍なのに、本人が卒業していたと思い込んでいたと、説明していることである。

 わたしは、長らく大学の教員をしていたが、こういう勘違いは、ちょっと考えられない。卒業はもちろんだが、中退と除籍も違う。


 ちなみに、中退と除籍は似て非なるものである。中退は、学校を止めた日までの授業料を納めていなければならない。除籍になるのを避けるために、支払っていなかった分の授業料を納めて、中退になる学生もいる。中退は、一定の条件をみたせば(大学や学部で異なる)復学できる。また、履修単位を持って、他の学校へ編入できるケースもある。除籍はそれができない。中退はあくまで本人の都合であるが、除籍は大学の判断である。中退は在学中の履修単位が消滅しないが、除籍は学籍そのものが消滅するので、成績等もうしなわれる。除籍の中には、犯罪などによって、籍を抹消されるケースもある。このへんは、事務局が学生にきちんと説明するはずである。大学、学部、時代によって相違はあるだろうが、それでも、基本的な点はそう違わないはずである。

 要するに、中退と除籍はかなり違う。この二つの違いがわからないということは、まず、あり得ない。この市長が在学したことのある大学はかなり規模が大きいが、それでも、このへんはきちんと説明されていたはずである。その説明もきちんとうけていなかったとしら、それはそれで、卒業と勘違いできるはずもない状況だったことになる。

 大学の卒業時に、卒業単位で苦労する学生はめずらしくない。わたしも、卒業単位ではいささか苦労した。卒業式のない時代だったので、卒業証書を受け取らず、そのままにしていたら、大学事務室から、迷惑だから取りに来いと、電話がかかってきた。それをもらって、本当に卒業したのだと、一安心した記憶がある。年をとってから、外国の大学で授業をすることになり、そのために卒業証明書を提出しろと言われた。このときも、いささか不安になったが、無事、卒業していた。もっともその前に、新設校に修飾していたので、その時の審査で、わたしの学歴は、お国が保証してくれたのだが・・・。それでも、ある時期、大学を卒業していないという悪夢をときどき見る時期があった。

 卒業が危なかった学生は、自分の身分について、当然ナーバスになったはずである。この市長さんは、あきらかに奇妙なことをのべているのである。


 大学を卒業していようが、除籍になっていようが、市長を勤めるうえでは、それほどの問題ではない。しかし、自分の身上について、ウソを重ねるような人物に、市長の職をまかせるのは、どうも不安である。


2025/08/03。


コメント

このブログの人気の投稿

『三国志を歩く、中国を知る』を読んだ。

『幽霊の脳科学』を読んだ。

『大観音の傾き』を読んだ